ひとみの内緒話

presented by ひとみ & イネ

亜理紗 雪むすめ (3) 2013-03-26 (tue)

作:Shyrock様

※※ 第3章 夜陰に紛れて ※※

「そうなんだ。それじゃ共通の話題が多いかも知れないね。10日ほど滞在させてもらうので時間のある時は遊びにきてね」
「まぁ、お邪魔してもいいのですか? すごく嬉しいです。実はこの近所に友達がいないので退屈をしていたんです」
「え? でもここは君の地元だろう? どうして友達がいないの?」
「はい、みんな進学とか就職で都会に行ってしまって、こちらにはほとんどいないんです」
「そうなんだ。じゃあ、いつでも遊びにおいで」
「でもお仕事の邪魔をしてはいけないので程々にしますね」
「いやいや、程々なんて言わないでしょっちゅう来たらいいから」
「あ、はい。しょっちゅう来ます」
「ははははは〜」

 亜理紗は先ほど見せたかすかな翳りは消え、すっかり明るい表情に変わっていた。俊介は東京における最近の出来事を亜理紗に話してやり、ふたりはすっかり打ち解けていた。
 その後おもむろに今回小千谷に訪れた目的を亜理紗に語った。

「そう言う訳なので、雪女に関する昔話や情報等何でもいいので知っていたら教えてね」 

「はい、分かりました。でも残念ながら私はあまり知りません。地元のお年寄りやお母さんの方が詳しいですよ。でももし何か思い出したらお話ししますね」
「ありがとう。よろしくね」
「あっ、もうこんな時間になってる。長時間お邪魔してしまってごめんなさい」
「邪魔なんてとんでもない。むしろ楽しかったよ。小千谷の隠れ里にこれほどの美人がいるとは思わなかったし。ははははは〜」
「まあ、お上手を」
「いや、上手じゃなくて本音だよ。じゃあ、また話そうね」
「ありがとうございます。ではおやすみなさい……」
「おやすみ」

 亜理紗は深々と頭を下げて挨拶をした後、静かに部屋を出ていった。

(礼儀正しい子だなあ。それにすごい美人だし、取材出張に新潟を選んで正解だったかも知れないなあ)

 いよいよ明日から本格的に雪女に関する取材を行うことになる。
 目的地はこの温泉から割りと近い山村だ。
 夕食を済ませた後、俊介は明日の準備に取り掛かった。
 初日は村のお年寄りたちから、できるだけ多くの民話や伝説を聴き取ることにあった。 

 日本の各地には、数百年にわたり語り継がれ、多くの世代に親しまれてきた数多くの民話や伝説が残されている。それらを最も知る者は村の長老たちであり、彼らは知識の宝庫と言える。
 果たしてどんな話が聴けるか、俊介は期待に胸を膨らませた。

 その後資料を準備したり書物に目を通したりして過ごした俊介は、かなりの時間が過ぎたような気がしてふと時計を見たが、意外にもまだ早く午後10時であった。都会の喧騒から隔絶した別世界にいると、時間の経過が緩やかになるのかも知れない。 

 外では音もなく雪が舞い落ちる。その静けさはまるで腰元が板敷きの長廊下を歩いているようで実に慎ましやかだ。
 俊介は寝床に入ってからも電気スタンドを灯して書物に目を通していたが、明朝の仕事のことを考えて、10分後には明かりを消していた。

 俊介が寝入ってからどれだけ時間が経過しただろうか。
 俊介は寝床の中に異様な気配を感じ、ハッと目を覚ました。
 それは紛れもなく人の気配だ。
 俊介は驚きのあまり慌てて布団から飛び出た。

「うわ〜っ!」
「あっ…ごめんなさい……私なんです。昼間にお邪魔した亜理紗です。驚かしてしまってすみません」
「え? うそ! なんで? なんで君が僕の布団の中にいるんだ?」
「許してください…寂しかったんです…」
「えっ? 寂しいからって…それだけの理由で僕の布団の中に…?」
「本当にごめんなさい。でも私、すごく寂しいんですぅ。こんな田舎なもので話し相手になってくれる人もいませんし。今日車井原さんとお会いして、この人なら…って思ったんです。お願いです! どうか私を抱いてください!」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってよ〜! そんなこと急に言われても……」
「私のような女は嫌いですか。車井原さんの好みではないですか?」
「いやあ、そんなことはないよ。君はきれいだしとても魅力的だと思うよ。だからと言って……」
「やっぱり嫌いなんですね…仕方がありません。お邪魔しました。私、戻ります」
「ちょっと、ちょっと! 嫌ってなんかいないよ。君のような可愛い子を嫌うはずないじゃないか。むしろ僕のタイプだよ、亜里沙ちゃん…だったよね? でも本当にいいの? 後悔はしないかい?」
「もちろんです。私は直感を大事にするんです。あなたと今日初めてお会いして、この人ならって思ったんです。私を抱いてくれるのですね?」
「うん……」
「嬉しい……」

 亜理紗は喜びを隠しきれない様子であったが、一方俊介はまるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
 あまりにも唐突ではあったが亜理紗のひたむきさに押され、俊介は流れのままにそっと亜理紗を抱き寄せた。
 乙女特有の甘酸っぱい香りが漂い、俊介は心がくすぐられるような気がした。亜理紗の長い黒髪を撫でながら、おとがいをそっと持ち上げ唇を重ねた。

- つづく -


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