ひとみの内緒話

presented by ひとみ & イネ

亜理紗 雪むすめ (1) 2013-03-14 (thu)

作:Shyrock様

※※ 第1章 雪女伝説 ※※

 3月某日、テレビ夕陽企画部では新年度放送予定の番組として“日本の幽霊妖怪大全集”の制作が決定した。現地取材には都市伝説に詳しいフリーのルポライターの車井原俊介が選ばれた。
 初回のテーマとしては“山姥”“河童”“雪女”が候補に挙がったが、最終的には取材の行ないやすさなどからその決定は俊介に委ねられた。
 今回は現地で騒ぎにならないよう大挙して押しかけることなく俊介一人で赴くこととなった。元々一人旅が好きな俊介としては、大勢で行くよりもむしろ一人の方がありがたかった。

 彼はすでに32歳になっていたが、拘束されることを極端に嫌い天涯孤独を好むところから、企業など組織に属することは避け自由業を選び、親戚や友人から縁談を薦められても結婚は頑なに拒んだ。
 しかし決して女嫌いと言うわけではなくむしろ人一倍女好きと言えた。身長こそ175センチと平凡であったが鼻筋の通った端正なマスクを持ち、話術に長け、女性には滅法手が早く恋人の不在歴はほとんど無いほどであったが、現在は珍しく“空室状態”であった。それでも、彼は常々“いなければいないで構わない”と考える性質で、現れなければ無理に探さないところが彼流であった。

 そんな男であったため“山姥”“河童”“雪女”の3択の答えは火を見るよりも明らかであった。例えそれが“妖怪”であっても同様で、色気のないものより色気のあるものを好んだ。よって俊介はためらうことなく“雪女”取材を選択した。

「ふふふ……できることならば一度会ってみたいものだ……」

 俊介は不敵な笑みを浮かべた。
 小泉八雲の小説『雪女』をはじめ、昔から日本各地の積雪地帯で多く語り伝えられている雪の夜の怪物。山形、新潟、長野、和歌山……至る所に雪女の伝説が残っているが話の内容はそれぞれ異なっている。
 その中で最も古くから伝わっているのが、室町時代末期の連歌師宗祇法師による『宗祇諸国物語』で、法師が越後国(現在の新潟県)に滞在していたときに雪女を見たと記述があることから、室町時代には既に伝承があったとされている。
 俊介は新潟へ行くことにした。一応10日間滞在の予定だ。

 取材は週明けからでも良かったが、逸る気持ちもあって俊介は早速現地に赴いた。東京駅から上越新幹線あさひに乗り浦佐駅で在来線に乗換え小千谷へと向かった。
 早朝に立ち、昼前には小千谷に到着した。
 タクシーに乗込みあるひなびた温泉へと向かった。周りには残雪と言うよりも、まだ冬の盛りを思わせるような積雪があった。
 日本海側の自然の厳しさを目の当たりに見る思いがした。

(こちらでは春はまだ遠いんだなぁ……)

 タクシーは目的の温泉地で俊介を降ろして直ぐに走り去った。温泉地といっても、かなり年季の入った料理旅館が1軒あるだけであった。

 俊介はのれんをくぐった。

「こんにちは。東京から来た車井原です」

(…………)

 返事が無い。

「こんにちは! ごめんください」

 奥の方から女将らしき中年の女性が現れた。

「ああ、すみません、気が付きませんで。よくぞお越しくださいました。さぞかしお疲れでございましょう。私はこの旅館の女将でございます。ささ、どうぞ、お上がりくださいませ」

 女将は丁寧に挨拶をした後、俊介を2階の和室に案内した。
 外観はかなり古ぼけた印象があったが、建物内は見違えるほどよく手入れを施されていた。
 16畳ほどの和室に入った俊介は、早速、掘りごたつで暖を取った。

「お疲れでございましょう。東京からお越しになられたのですね?」
「ええ、そうです。事前に電話でお伝えしましたように、テレビ番組の取材で参りました。よろしくお願いします。色々と教えてくださいね」
「はい、何なりとお聞きください。私の知っていることは全部お話させていただきますので。その前にお茶でも飲んで温まってくださいね」

 そう言いながら女将は急須で静かに注いだ。
 茶托に乗った茶碗が俊介の前に出され、俊介は茶碗の蓋を開けた。

「いただきます」
「どうぞ」

 俊介は蓋を傾けて裏のしずくを切った後静かに茶托の右に置き、ゆっくりと茶を味わった。茶を飲みながら女将とたわいない話を交わした後、俊介はおもむろに質問を始めた。 

「ではこちらに残っている雪女伝説を教えていただけませんか。大雑把でも構いませんので」
「はい、承知いたしました。越後の小千谷地方にはこんな昔話が残っているんです」
「はい……」
「ある夜、軒のつららを切り落とした男のところに美しい女が訪ねてきて、泊めてやったのが話の始まりです。男はその女の透き通るような色の白さ、美しさに一目惚れしてしまいました。」
「女もその男が気に入ったようで自ら望んで男の嫁になりました。女はまめまめしく働くし良くできた嫁でしたが、何故か昼間出掛けることは好まなかったそうです。ある寒い夜、嫁が嫌がるにもかかわらず、男は無理やり風呂に入れたそうです。すると姿が消えてしまい、細いつららのかけらだけが浮いていたという話が残っています」

 俊介は女将の話を得意の速記で素早くレポート用紙に書きとめた。

- つづく -


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