ひとみの内緒話

presented by ひとみ & イネ

Night Walkers 2 -0202 2018-07-09 (mon)

投稿:巽ヒロヲ様

※※ 無明/長夜 第二章 (2) ※※

「誰と、戦うつもりなんだ?」
「……師匠は、普段、どんな相手と戦ってるんですか?」
 俺は、直接質問には答えず、訊き返した。

「何だって?」「師匠の“傭兵”っていう肩書きが、表向きのものだってことは、聞いた事があります。もっと何か――別の世界に属する存在と、やりあってるんだっていう話を」
「……ふうん」「その時は、半信半疑でしたけど……」「……」

「そういう――師匠と互角に戦えるような存在が、この世界にはいるんじゃないですか?」「そりゃまあ、そうだけどよ――」
 師匠が、細い目を、さらに細める。

「お前さん――知っちまったのか?」
「……質問の意味が、よく分からないんですが」
「人間でない連中を相手に、何かしでかしちまったんじゃないか、ってことだよ。……俺と、同じようにな」「――そうです」

 一呼吸置いてから、そう、答える。
 その時、俺は――うまく言えないが――まるで、見えない境界線を越えてしまったような、そんな不思議な気持ちを感じていた。

 もう――後戻りは、出来ない。いや、とっくにその戻ることの出来ない線を越えていたのを、改めて認識したのか。

「……面白い。そうでなくっちゃな」
 師匠は、何だか満足げな顔で肯いた。

「で、相手は何だ?」「――吸血鬼、です」
「おいおい、いきなり大物だな」
 笑みを引っ込め、真面目な顔で、師匠が言う。

「信じてくれるんですか?」
「今更、何言ってンだ? そもそもお前さんが、まさか冗談を言うとは思えないしな」「……」

「それに、その件については、ちょっと心当たりがあるんだよ」
「心当たりですって?」「まあな」

 言いながら、師匠が、ゆっくりとこちらに近付いて来る。
 気軽な、殺気も何も感じさせない歩調だ。
 だが、俺は、緊張を緩めるようなことはない。そんな俺ににやりと笑ってから――師匠が、素早く俺の間合いに入り込んだ。

「!」
 とん、と師匠の右手の人差し指と中指が、俺の胸の中央辺りを、軽く叩く。呼吸を、完全に盗まれていた……。思わず、唇を噛んでしまう。

「吸血鬼なら心臓。狼男なら脳。んでもって、幽霊だったら逃げて、魔女だったら恋人にしちまう。それが、この世界の常識だ」

 どこまで本気なのか、師匠がそんなことを言う。

「常識、なんですか?」
「ああ。しかし、素手ってのはちょっと心許ないな。気の利いたハンターは、たいてい、何かの武器でもって吸血鬼の心臓を破壊するンだぜ」
「ハンター……師匠も、その、ハンターなんですか?」

「いや、俺は違う。俺は何でも屋さ。吸血鬼には、吸血鬼専門のハンターがいるンだよ」「それは……異端審問官、ですか?」
「ヴァチカンのか? いや、連中も専門家とは言えない。しかし、どこでそんな言葉を憶えたんだ?」「……」

「まあいい。どっちかって言うと、連中の専門は魔女だな。まあ、魔女も吸血鬼も狼男も、向こうの連中にとって見れば、ある意味では同じようなもんなんだが」
「……」

「吸血鬼専門の退治屋は、いろいろと種類があるが、たいていは先天的な能力の持ち主だ。そういう連中の中には、クルスニクとかサバタリアンってのがいる」

 まさか、師匠の口から、こんなオカルトじみた話が出てくるとは思わなかった。だが、ミアやチボーと出会った俺にとって、その類の話は、生々しいリアリティに満ちている。そして師匠は、俺が垣間見た世界の裏側に、その身を置く人間だったのだ。

「クルスニクもサバタリアンも、先天的に、吸血鬼と人間を見分けることができる。クルスニクは白い羊膜に包まれて生まれてきて、サバタリアンは、安息日である土曜日に生まれるって話だ。ま、これは伝説かもしらんがな」
「それが、ハンター……」
 つまり、ミアを狙う敵ということか。

「それと、もう少し吸血鬼寄りなのがいる」
「吸血鬼寄り?」
「ああ。クルスニクに似てるが、赤い羊膜を被って生まれてくる、クドゥラクとかヴェドゴニアって呼ばれる連中も、吸血鬼を倒す能力を持ってるって話だ。だが、そいつらは、死んだ後には吸血鬼になっちまうっていう物騒な奴らだがな」
「吸血鬼に……」

- つづく -


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